もくじ
不妊治療で生まれる子供の数は16人に1人と普通の社会現象です
いまや16人に1人は体外受精で生まれている どんな治療なのか
不妊を専門とするクリニックを初めて訪れたAさん夫婦は、「不妊治療にはどんな治療方法があるのかまったく知りませんでした」とのことでした。
特に「体外受精」は一度は言葉を耳にしたことはあっても、実際にどんな治療をしているのかご存知である方は少ないのではないでしょうか。
体外受精には大きく5つのステップがあります。1つ目は卵子を育てる「排卵誘発」、2つ目は実際に卵子を回収する「採卵」、
3つ目は採れた卵子と精子による「受精」、4つ目は受精卵を発育させる「培養」、5つ目は発育した受精卵(胚)を子宮に戻す「胚移植」です。
自然の月経周期では卵子は最終的には1つしか育ちません。そこで体外受精では、卵子を育てるために排卵誘発剤と呼ばれる内服薬や注射薬を使用することにより、複数の卵子を育てます。
自然周期での採卵を行っているクリニックもありますが、卵子1個を回収して受精卵を作り、それを戻すというやり方では効率が悪く、費用もかかります。
そのため排卵誘発剤を使用し、なるべく複数の卵子が獲得できるようにします。
すべての卵子が十分に育つのを待って、採卵を行います。採卵は婦人科の診察で使用されている経腟超音波を用いて行い、お腹の上からではなく膣の内から卵巣に直接針を刺して卵子を回収します。
採卵には麻酔を用いる施設が多く、局所麻酔かあるいは静脈麻酔によって眠っている間に採卵することも可能です。痛いのが苦手という方は静脈麻酔ができるか担当医に相談してみてください。
採卵当日にはご主人も病院に来ていただくか、あるいは自宅で精子を採取する必要があります。
■受精には2つの方法がある
次に、得られた卵子と精子を受精させます。受精の方法には卵子に一定量の精子をふりかける「媒精」と、精液所見が悪い場合に運動性の良い精子を選んで卵子に注入する「顕微授精」の二通りの方法があります。
顕微授精では卵子1個に対して1匹でも精子がいれば受精が可能ですので、非常に精子が少ないあるいは運動率が低い方でも受精が可能となります。
受精した卵は「インキュベーター(培養器)」と呼ばれる温度や湿度、二酸化炭素濃度などが厳重に管理された容器の中で大事に育てます。
現在は「タイムラプスイメージング」と呼ばれる受精卵の発育過程を連続的に撮影できる培養器を導入している施設もあります。この器械を使うと、自分の受精卵の発育を動画にして見ることができます。
得られた受精卵を子宮に戻す過程を胚移植と呼びます。胚移植には採卵した周期に子宮に戻す「新鮮胚移植」と、できた受精卵を凍結して別の生理周期に戻す「凍結融解胚移植」があります。
複数の受精卵が得られれば、凍結することによって1回目の移植で妊娠できなくても再度採卵からやり直すのではなく、凍結してある受精卵を融解し複数回の胚移植を行うことが可能です。
もともと体外受精は卵管が閉塞している方や精子所見が悪い方に行われてきましたが、現在ではタイミング法、人工授精を行っても妊娠できず、体外受精にステップアップされる方が大半を占めています。
日本産科婦人科学会の報告では、2018年に体外受精で生まれたお子さんは5万人を超え、16人に1人が体外受精によって生まれています。体外受精で生まれるお子さんの数はここ10年で約2倍になっており、
いまや学校のクラスメイトに2~3人は体外受精で生まれたお子さんがいる、というくらい身近な治療になっているのです。