薬は 飲み始めてから いつ頃に 効いてくるのでしょうか?

もくじ
薬の効果と血液中薬物濃度
一般に薬は血管の中に入り、血液に溶け込んで全身を巡るうちに、目的の部位に到達して効果を発揮します。
例えばある種の血圧を下げる薬であれば、血管細胞のある部分に到達すると血管が広がって血圧を下げます。
図1は縦軸が薬の血液中の濃度、横軸が薬を飲んでからの時間経過を表した図です。
通常、薬を飲むと比較的早く血液中に現れ、ピークを迎えてからは比較的ゆっくりと血液中から消えていきます。
血液中の濃度が薄いときは薬の効果は出てきません(無効域)。図1の無効域と有効域の境目を最小有効濃度と呼び、さらに薬の有効域に入ります。有効な濃度域を超えると、薬は副作用を発生する中毒域に入ってしまいます。有効域と中毒域の境目は最小中毒濃度と呼びます。
さらに血液中の濃度(以下、血中濃度とします)が上昇すると死に至る場合があります。中毒域と致死濃度の境目は最小致死濃度と呼んでいます。私たちが利用する薬は有効域の中に常用量が設定されていますので、血中濃度がピークなっても中毒域には達しないわけです。
以上が原則になるのですが、体の状態によって常用量を使っても中毒域になったり、有効域でも本来期待する薬の効果以外の反応が起こり、それが副作用になる場合もあります。
1) 薬は飲み始めてからいつ頃に効いてくるのか?
痛み止めの薬は、今ある不快な痛みを和らげたいわけですからすぐに効いてくれないと困ります。一方で、飲み始めて何日かたってから安定した効果が出てきてもよい薬には高血圧の薬があります。
図1の血中濃度のグラフを見てください。薬を飲み始めてから血中濃度が最高になるまでの時間を最高血中濃度到達時間(Tmax)と呼び、そのときの血中濃度を最高血中濃度(Cmax)と呼びます。その後、ゆっくりと血液中からなくなっていくのですが、その下がり具合の指標として血中濃度半減期(t1/2)があります。
つまり、元の血中濃度の半分の血中濃度になるまでの時間になります。多くの薬はこの半減期に従って血中からなくなっていきます。
(1)すぐに効いてくる薬の特徴
半減期の短い薬と言ってよいでしょう。ジクロフェナクという痛み止めの薬は半減期が1.2時間と短い薬です。
一般に薬を飲んでから半減期の4~5倍の時間を経過すると元の濃度の6.25~3.1%(0.54~0.55)程度にまで減少しますから、臨床的にほとんど意味がない量になります。
ジクロフェナクは頓用(1回服用)でも痛みが十分止まりますから、1回服用のCmax付近の血中濃度で効果が十分に出る薬になります。しかし6時間もたつと血中濃度が下がり過ぎて効果はなくなります。痛みが継続する場合には血中濃度が下がり過ぎる前に次の分を服用する必要がありますから、関節リウマチや腰痛症など持続する痛みにジクロフェナクを使う場合は、1日3回飲む必要が出てきます。
図2はジクロフェナクを1日3回飲んだ場合の血中濃度の推移を見ていますが、血中濃度が下がり切る前に次の投与が行われていることが分かります。
半減期の短い薬は1日数回飲まないと効果が持続しないわけです。ジクロフェナクの場合は徐々に薬が放出されるように工夫された製品(ボルタレンⓇSR等)があり、それは1日2回の服用で痛みが取れるのですが、逆に即効性に欠けるため頓用では使いにくい薬になっています。
(2)ゆっくりと効いてくる薬の特徴
こちらは半減期の長い薬と言ってよいでしょう。血圧を下げる薬のアムロジピンの半減期は36時間とかなり長い薬です。この薬は1日1回服用すればよい薬ですが、その血中濃度の推移を見ると図3のようになります。
血中濃度が下がり切る前に次の投与が繰り返されるので、次々と血中濃度が継ぎ足されかなり高い血中濃度で安定していることが分かります。この高い血中濃度の位置で上下動を繰り返す状態(矢印間)を定常状態と呼んでいます。定常状態の存在する薬はその付近になった頃合いに安定した効果を発揮します。そして、定常状態に達する時間は半減期を4~5倍経過した付近になります。
前述のように薬の効果がなくなるのも半減期の4~5倍経過後で、数字が一致しているので覚えやすいかと思います。私はざっくり4.5倍と覚えています。
従ってアムロジピンの場合は、単回投与のCmaxでは血中濃度が低くて効果は期待できず、4.5半減期後の162時間後、つまり大体1週間後くらいから安定した血圧低下作用が期待できる計算になります。高血圧治療では急激な降圧作用はかえって良くなくゆっくりと血圧を下げるのが良いとされていますから、ちょうど良いあんばいの薬と言えるでしょう。
(3)定常状態のない薬とある薬の区別
(1)で示したジクロフェナクは半減期が短いため1日3回投与しましたが、図2を見ると図3と同じように定常状態があるように見えます。しかし1回目に投与したCmaxと第2回目以降のCmaxは図3のような高い血中濃度にならず、ジクロフェナクの1日3回投与では定常状態が実質ないと見なせます。
さらに血中濃度の下がり具合も大きいため、次の服用時間を守らないとすぐに痛みが再燃する人も出てくる可能性があります。
定常状態のあるなしを判断するには、投与間隔(τ)の中に半減期(t1/2)がいくつあるかで見る方法があります。
定常状態なし:τ/t1/2 ≧4
定常状態あり:τ/t1/2 ≦3
3~4の間は適宜判断することになります。
ジクロフェナクの場合は、τ(8時間)÷t1/2(1.2時間)=6.7>4 →定常状態なし
アムロジピンの場合は、τ(24時間) ÷t1/2(36時間) =0.7<3 →定常状態あり
となります。
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