なぜ現代日本人はこんなにもこころの病にかかってしまうのか。
時代が変われば個性になる? 医学博士が見た、日本人を苛むこころの病。
「正式な病名がついて、救われました。」「病はあなたのせいじゃない。」

3000万円を貢いだ息子
依存症の最大の問題は、本人のみならず周囲の人、とくに家族を巻き込んでしまうことです。たとえばアルコール依存症は、症状が悪化すると酒を飲んで出勤したり、無断欠勤を繰り返してしまいます。
それがもとで減給や解雇の処分を受ければ、一家の生計が成り立たなくなるでしょう。外で暴力事件を起こせば、警察に呼び出され、被害者に謝罪し、
裁判で多額の賠償金を科せられます。お酒を飲ませないようにすれば、家族も暴力をふるわれるでしょう。あげくには方々で借金を重ね、最後にはたいへんな金銭問題が残ります。
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しかし、家族はまったく気の毒な被害者でしかないかというと、私はそうは思いません。多くの依存症者やその家族と向き合ってきた経験からすると、家族にも原因がある場合が多いからです。
ある日、無職男性(この人はもともと統合失調症でデイナイトケアに通っていました)は、40歳を過ぎて人生初の彼女ができました。
ところがこの彼女というのが悪い女で、デートのたびに彼にお金をせびるのです。最初は5000円とか1万円だったのですが、だんだんとエスカレートしていって、10万円になり、20万円になり……最後には「100万円ちょうだい」と言い出したのです。
「息子をどうにかしてください!」と言ってきたのは、母親でした。しかし、彼はこれまで仕事に就いたことがなく、ずっと無職です。そんなお金は持っているはずがありません。ではどうしていたのかというと、両親が乞われるがままにあたえ続けていたのです。
私がびっくりして「なんでお金をあげちゃうんですか!?」と聞くと、「〇ちゃんが、かわいそうだから」というのです。
子どもの頃から「愛情をもって育ててきた」とはいえ、これは甘やかし以外のなにものでもありません。しかも、息子はもう40過ぎ……子離れのタイミングを逸したままズルズルと今日まできてしまった結果でした。
両親が意を決して「もうお金はわたせない」と言うと、息子は狂ったようにわめき、手あたりしだいにものを投げ、暴力をふるいます。
かわいいわが子に手を上げられる悲しさはいかばかりか。そうして「今度だけ」「これが最後」を繰り返してしまうのです。
彼の場合は人間関係に依存するタイプで「恋愛依存」「DV」「家族依存」の複合型です。どうしてこのような依存症になってしまったのかを探っていくと、やはり両親の育てかたに問題があったと考えざるをえません。
また、依存症者にお金をあたえると、病状をますます悪化させてしまいます。この男性の場合は両親がコツコツためた資産をほれた彼女に湯水のごとく使ってしまいましたが、
このまま放置していれば借金の保証人にさせられて、さらに何千万円ものお金をむしり取られたかもしれません。
専門知識とノウハウをもった精神科医や福祉関係者が第三者として介入することで、問題を解決したり、少なくとも問題を起こさせないようにすることができます。
家族の依存症で悩んでいるのなら、メンタルクリニックの診断を受けることをおすすめします。日本ではまだ依存症に取り組むデイナイトケアは多くないのが現実ですが、これから社会全体の問題として考えていく必要があります。