「認知症」治療薬ですが 効果は同じなのに 副作用はあるのですか?
もくじ
重大な副作用から見える各種認知症治療薬の性質
6.興奮性精神症状の副作用
タバコに含まれるニコチンが体内のニコチン受容体に作用して覚醒・興奮作用を示すように、アセチルコリンもニコチン受容体を刺激して興奮的に作用すると考えれば、アセチルコリン作用増強型薬剤が興奮性の精神症状を引き起こすであろうことはある程度理解できます(それが易怒性や攻撃性にまで結び付くかどうかまでは分かりません)。
❶リバスチグミン
本剤のみ「重大な副作用」に興奮性精神症状「幻覚など」の副作用が記載されています。
❷ドネペジル、ガランタミン
興奮性の副作用は「その他の副作用」に記載されており、重大視されていない印象があります。しかし前出の河野医師の資料によると、ドネペジルの興奮性副作用が問題視され少量維持療法によって易怒性が治まり症状の進行抑制効果も継続できているとしています。彼らの評価ではドネペジルが強興奮作用、次にガランタミンとリバスチグミンが弱興奮作用の位置付けになっています。
7.脱水の副作用
「脱水」を重大な副作用として記載しているのはリバスチグミンのみです。理由として「下痢や嘔吐の持続により脱水状態になるため」としています。
❶リバスチグミン
もともと消化器症状の副作用が強いため貼付剤となった経緯がありますが、貼付剤となった今も他の薬剤と比べると消化器症状が強く出る可能性を秘めているのかもしれません。
❷ドネペジル
「その他の副作用」にも「脱水」の副作用記載はありません。低用量での消化器症状への慣らし服用期間が1~2週間と最も短い本剤は、それだけ消化器症状への慣れも早いと考えられ消化管への負荷が他の2剤よりは緩和されているのかもしれません。
8.まとめ
ここまでのまとめでは臨床効果が同等らしいガランタミンとリバスチグミンで、なぜガランタミンに重大な副作用の数が多いのかは分かりません。そこで次のように考えてみるのも一つの理解方法かと思い、紹介してみましょう。
それには各薬剤の血中での薬物動態を追うという手段を用います。利用するのはドネペジルを含む抗コリンエステラーゼ阻害薬の体内動態パラメーターの血中濃度半減期になります。添付文書から、
ドネペジルの半減期:約90時間
ガランタミンの半減期:約9時間
リバスチグミンの半減期:約3時間(貼付剤を剝がした後の半減期)
図34では、Qflexという血中濃度シミュレーションソフトを利用して血中濃度の推移を数日間追跡してみます(ただし、リバスチグミンのみ添付文書のグラフ)。
❶定常状態の有(第1章参照)
(1)ドネペジル:1日1回(24時間ごと)24÷90≒0.3<3⇒定常状態あり(17日後)
(2)ガランタミン:1日2回(12時間ごと)12÷9≒1.3<3⇒定常状態あり(1.7日後)
(3)リバスチグミン:1日1回⇒徐放型貼付剤で緩やかなピークあるも1日中ほぼ一定の血中濃度
❷副作用の強さと血中濃度の関係とは
(1)ドネペジル血中濃度は徐々に上がっていき、定常状態に達すると血中濃度の振れ幅の少ない上下動を繰り返しているのが分かります(図中の両矢印)。低い血中濃度になるときがなく高い血中濃度に絶えずさらされているとみなせます。
(2)ガランタミン定常状態は存在していますが、血中濃度の振れ幅が大きくなっています。その分、1日の中で低い血中濃度の時間帯が存在していることになります。血中濃度の低い時間帯の存在が副作用の少なさに関わっている可能性があります。臨床効果は、一定の平均的な血中濃度が保たれていれば中等度までの適応に十分耐えられる薬剤であるともいえます。
(3)リバスチグミン定常状態の存在というよりも貼付剤から徐々に放出される薬剤が血中に移行するため、一日中ほぼ一定の血中濃度を保つと考えてよい薬剤です。
つまり低い血中濃度になる時間帯がないという意味ではドネペジルと同じで、ガランタミンと比べると副作用も多くなってしまうのではないでしょうか。かといってドネペジルより元々の臨床効果が弱いので、適応は中等度までにとどまっている薬剤といえそうです。
ガランタミンと比べて副作用が多いのは、血中濃度の動態の違いにも原因がありそうです(グラフ中の●は9mg製剤、○は18mg製剤投与時)。
④まとめ
認知症の薬も重大な副作用と薬物動態を組み合わせると、その薬の特徴が見えてきたのではないかと思います。ただ日常の業務の中で比較検討して評価できるかというとなかなかできないのが現状ではないでしょうか。
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