薬を飲み忘れました 2回分を すぐ服用 しても 大丈夫ですか?
もくじ
2)薬を飲み忘れた! どうすればよいのか?
この問題に対する回答は個々の薬の性質(食直前・食直後・起床時・空腹時服用に意味のある場合など)によるため、一概にこれだという結論は出せないと思いますが、よくある表現は次のようになります。
(1)気が付いた時点ですぐに服用してください。
(2)次の服用時間が近い場合には1回分を飛ばして、次の服用時間に服用して、決して飲み忘れた分を含めた2回分を服用しないようにしましょう。
ここで気になるのは、②の「次の服用時間が近い場合」の近い場合とはどれくらい近い時間なのか?です。手元にある10年近く前の関連記事では「1日3回服用の薬は、次回服用まで4時間以上、1日2回の場合は5時間以上、1日1回の場合は8時間以上空けましょう」とありました。一つの基準として考えるには良さそうですが、一律にどの薬でもこのやり方でよいのかという疑問から、半減期が異なる薬を日本TDM学会で紹介されている無料ソフト「Qflex」を利用してシミュレーションしてみた結果を紹介します。詳細はパスカラニュース157号を参照していただくとして、結果だけを記載すると表1のようになりました。
ここで気を付けるべきは全ての薬について、次の服用時間まで空けてよいのかという問題です。血中濃度がある一定範囲内に収まるように等間隔で服用することに意味がある薬の場合は、次に服用する時間が近くてもすぐに服用して、その次の服用はできるだけ本来の間隔になるように時間をずらす服薬指導が必要になると思われます。そのような薬には以下のような薬が考えられます。
抗てんかん薬(てんかん発作予防)、テオフィリン薬(喘息発作予防)、狭心症用薬(狭心症発作予防)、抗不整脈薬(心房細動発作予防)、ジゴキシン製剤(心臓発作予防)、抗生物質や抗ウイルス薬(病原体対策)、麻薬性鎮痛薬(突発痛予防)など思い付いた限りを書きましたが、当然他にもあるはずで個々の薬剤師の判断が必要になるでしょう。
まとめ
飲み忘れに気が付いた時点で薬を飲むのが一番良いと思いますが、次に飲む時間をいつにするかが問題になります。いつも通りに飲んでいると血中濃度が高くなり過ぎる場合もありますから、一定期間を空けるとよいのですが、不自然な時間になってしまい不都合です。多少の時間のずれはあってもよいですから、できるだけ元の服用時間に戻せるように工夫する必要があるでしょう。薬の性質にもよりますから一般の方は薬剤師のアドバイスを聞いていただきたいと思います。
3)薬を飲み忘れたとき、2倍量飲むとどうなるのか?
本章2)項の中で薬を飲み忘れた際の常套文句を紹介しましたが、今回はその中の「決して2回分を1度にのまないように」を取り上げます。
①決して2回分を1度に飲まないようにとは
この解釈は恐らく定常状態の有無、つまり薬の血中濃度半減期と投与間隔の関係で変わってくると思われます。20一般に投与間隔(τ)の間に半減期(t1/2)が4つ以上入るような投与方法の薬であれば定常状態がない薬で、3つ以下のような投与方法の薬であれば定常状態がある薬といわれています(第1章−1)項)。
1.定常状態のない薬(条件:τ÷t1/2≧4)
一般に半減期が短くて1日3回服用するような薬になりますが、ここでは過活動膀胱に利用される抗コリン薬オキシブチニン(先発薬ポラキスⓇ)を例に挙げましょう。半減期は約1時間で1日3回投与の薬になりますから、8時間÷1時間=8>4で、定常状態が無い薬の典型例といえるでしょう(図1)。
Qflexを利用した血中濃度シミュレーションは図1のようになります。1回飲み忘れて5時間もしないうちに血中濃度はゼロレベルになり、もし次の服用時間に2回分を飲むなら血中濃度が2倍になるのは明らかで、必ずや薬理作用型の副作用が現れるはずとなります。
2.定常状態のある薬(条件:τ÷t1/2≦3)
半減期の長い薬が定常状態のある薬になりますから、ここではCa拮抗薬で降圧薬として利用されるアムロジピン(先発薬ノルバスクⓇ)を例に挙げましょう。半減期は約36時間で1日1回投与の薬ですから、24時間÷36時間=0.67<3で、定常状態がある薬の典型例といえるでしょう。
図2はアムロジピンを1日1回5mg飲み続けた場合の図ですが、試しに次のように3つの飲み忘れ対策をした例を紹介してみます。
(1)初めて(0day)飲み始めてから毎日飲んでいましたが、8日目の薬を飲み忘れて、気がついたのが遅かったため次の服用時間に通常量の5mgを飲み翌日5mgを飲んだ(図3のa)。
→薬剤師の説明通りに飲んだのに血中濃度が上がらず、血圧がしばらく高めだった。
(2)同様に毎日飲んでいましたが、8日目を飲み忘れて、気がついたのが遅かったので次の服用時間に通常量の倍量10mgを飲んで、さらに翌日は通常量5mgに戻して飲んだ(図3のb)。
→薬剤師の説明を守らず倍量を飲んでしまったため、血中濃度が少し高くなり副作用が出るかも。
(3)同様に毎日飲んでいましたが、8日目どころか9日目も忘れて、気が付いたのが遅かったので次の服用時間に通常量の倍量10mgを飲んだ(図3のc)。
→薬剤師の説明を守りたかったが、さすがに2回忘れたので倍量を飲んで翌日は薬剤師の説明を守って通常通り5mgを飲んだら、意外に血中濃度は適切な位置にきて血圧も良かった。
②まとめ
・半減期が長い薬ほど、そして飲み忘れてからの時間が長いほど、定期の服用時間に2回分を一度に飲むと血中濃度がすぐに適切な濃度に回復することが分かります。つまり2回分を飲んでは絶対ダメとは言い切れない薬もあるようです。場合によって1.5回分を飲めばよいという薬もあります。
・ただ現実的には2回分の薬を一度に飲むと急速に血中濃度が上昇することで生じる思いもかけない副作用が出る可能性もあるので、安全性を考慮して常套文句通り、飲み忘れた分を合わせた2回分を飲まないようにと指示するのが患者さんに最も分かりやすく、指導する薬剤師も説明しやすいでしょう。
・しかし血中濃度を速やかに回復した方が良い緊急性を要するタイプの薬(2)項で示した抗てんかん薬等)では悠長に時間を空けていられないかもしれません。飲み忘れに気が付いたときに、すぐにいつもの量を飲ませて次に飲む間隔を適宜空ける応用力を生かせるかどうかでしょう。一般の方はぜひともかかりつけの薬剤師に尋ねてください。